ドイツのユニークな“まちづくり”
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1 未然に防いだ大型店舗の郊外進出

ダルムシュタット

改行マークまずは私の住んでいるダルムシュタットの“まちづくり”、 テーマは「大型店舗の郊外進出」である。

改行マークダルムシュタットはドイツのほぼ中央、 フランクフルトから南に約40キロ、 さらにその同じ距離を南下するとハイデルベルクがある。

  市域 :122.4km2
  人口 :139.754人(1994年現在)

改行マークヘッセン州唯一の工科大学(ダルムシュタット工科大学)の所在地。 わが国でも著名な化粧品のウエラとか薬品会社メルクなどがあり、 人工衛星宇宙管理のヨーロッパセンター(ESOC)がある。 官公庁・化学・機械工業を中心とした経済基盤は比較的裕福で、 物品購買指数では全国主要60都市のうち第3位、 乗用車の1,000人あたりの保有台数は334台と、 まあ誇るべき事項ではないが、 ドイツ第1位となっている。

改行マークまた国立オペラ、 州立博物館、 サッカー場などの文化/スポーツ機能が、 都心の商店街とか大型デパートなどの商業施設とともに、 郊外周辺のセンター的な役割を持っている。


郊外に進出する大型店舗

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図1 郊外に進出していく車で来る買い物客のための大型店舗
改行マークドイツで大型店舗が郊外に見受けられるようになったのは戦後の高度成長以降である。 家具とかじゅうたん、 家庭電気製品など大きな売り場に人がほとんど居なく、 自分で選び自分で車につんで持ち帰るシステムである。 庭いじりの好きなドイツ人、 自宅の修理や簡単な家の増、 改築は自分でやってしまうこの国の人達で、 こういった郊外の庭園センターとか日曜大工の建材店は盛況である。

改行マークわが国ではこの郊外発展傾向がドイツよりやや強いように見受けられる。 無人の郊外に発展してゆくパチンコ、 レストラン、 スーパーマーケット、 それにつれて市民もコーヒーを飲みにちょっと車を使って外に出る。 市内の八百屋さんも郊外のほうが効率が良いということで郊外に移転する。 みな外に出る。

町はさびれ、 夜は人通りのない、 自動販売機の赤いランプが点々とつらなる町となる。


商業がもたらす活気

改行マーク町はやはり人がいっぱいで活気があるのがいい。 町には新しい物があり、 意外な事に出会う。 ファッションや芸術は都市でこそ生まれ町の活気の中でこそ育つ。 町に活気をもたらすもの、 それは商業である。 そのため商業は都心のためのものであって郊外のものではない。

改行マークしかし都市の発展は経済原理、 弱肉強食の原理で動く。 大型商業が郊外に新しく出来てきた。 しかしそれは町の活気を外に流れ出させ、 町が死んでしまう原因となる。

改行マークこれを早く気付いて歯止めをかける、 そして良い方向に誘導するのが都市計画である。 これは言うにやすいが実際にはなかなか難しい。 利益を追求する企業の方針とそれに反する都市計画。 この誘導に成功したのがダルムシュタット市である。


大型店舗を都心に誘致

改行マークことの始まりは1970年代のはじめ、 市の郊外、 アウトバーンのインターチエンジ近くに大型商業センター建設の話が持ち上がった。 売り場面積が65、 000平米という非常に大きななものである。 当時、 ダルムシュタットの都心には中型の百貨店が4つあったが、 売り場面積は4つ合わせても、 この規模には満たなかったのではないだろうか。

改行マークこの外部資本による超大型ショッピングセンターの進出ニュースは当時の市内の商店主に大きなショックをあたえ、 都心の店をたたんでその中に移転を考えた商店主がかなりいたという、 これが出来れば客は外に流れ町が衰退するのは目に見えている。

改行マーク郊外の大型ショッピングセンターの建築許可申請を受けた市の都市計画局は早速立ち上がった。 市長を動かし市議会の援助のもとに、 当時未整備であった都心の一等地、 ルイーゼン広場にこのショッピングセンターをもって来るように働きかけた。


都心の再整備

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図2 ダルムシュタット都心の交通計画
改行マークそれと平行に都心の大改造を計画した。 それまで都心を縦断していた幹線道路をトンネルで地下にもぐらせ同時に地下に大駐車場をつくるというものである。

改行マーク通過交通のトンネルの入り口は同時に買い物客の地下駐車場の入り口であり、 また商品搬入も地下1階で行われ、 そのためトンネル内に信号機があるという異例の措置がとられている。

改行マークこれによって、 ルイーゼン広場の交通渋滞と、 都心の買い物客の駐車場問題を一挙に解決出来た訳である 。 車から開放された地上の広場一帯は歩行者天国になっている。 また路面電車とバスは従来通り地上を走り、 都心に乗り入れている。


建物計画

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図3 ルイーゼンセンター断面図
改行マーク地上の建物計画であるが、 ここに複合機能建造物(「ルイーゼンセンター」)を作る。 広場に面して、 上部には市庁舎の分室、 市長室とか議会場が入り、 その下1〜2階、 そして地下1階、 が商店モール形式のショップ イン ショップである。 テナントは 靴屋、 写真屋、 ブチック、 スポーツ用品店などで、 これらの商店はほとんどが地元の商店が本店をそのままにしておいて、 他所からの競争相手を押さえる意味もあって第2店として入っているものが多い。 誘致したショッピングセンターはデパートとしてその後ろの部分に入っている。 建物は4階建て一部6階建てである。

改行マーク地下2〜3階は駐車場で収容総数は全860台。 駐車場料金は1持間が2マルク、 約150円でそんなに高くはない料金である。

改行マーク土地の所有関係であるが、 この全域は市の所有地であった。 そこでデパート部分は郊外進出を計画していたカーシュタット社が市から敷地部分を買い上げる。

改行マーク商店街モールは、 これは地元のデベロッパーがつくったものであるが、 60年契約で市から借地する。 すなはち60年後には土地と建物をそっくり市に返還して市の所有となる。


「カレー」ブロック

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図4 ダルムシュタット都心ルイーゼン広場(4)に面して建つルイーゼンセンター(3)と新しくできたカレーブロック(1)
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図5 カレーブロックと二つの歴史的保存建造物
改行マークルイーゼンセンターは1979年に完成。 そしてその20年後、 昨年4月、 隣り合わせた都心拡張区域である「カレー」ブロックが竣工した。

改行マークこれは都心に残された当市の電力会社の2つの古い赤煉瓦つくりの機械ホールの保存を含めた都心再整備である。 基本構想はこの2つの建物を中心に、 都心に静かな内庭形式の囲まれた都市空間を作るというものである。

改行マーク2つの 赤煉瓦の建物のうち1つはマーケット形式の食料品売り場で、 またメキシコやベトナムといったエキゾチックなレストランが入っている。 戸外はカフェーテラスとなっていて、 内庭には机と椅子が並び、 天気の良い日にはお客でいっぱいになる。

改行マークもう1つの建物は文化ホールの計画であるが、 これはまだ出来ていない。

改行マーク新しいカレーブロックの売り場面積の増加は1万m2弱で前回のルイーゼンセンターのほぼ3分の1である、 また今回新しくオフィス面積が6,500m2増加された。

また駐車場が前期の820台に今回さらに350台分が地下駐車場として加わり、 合わせて1180台となり、 その2つは地下でつながっている。


まとめ

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図6 ルイーゼン広場近況
改行マークダルムシュタットは郊外にできようとした大型店舗を都心に誘致し、 それと同時に都心の改造を行なった。 都心を横切っていた国道をトンネル化し、 地下駐車場をつくり、 その上の広場を歩行者天国にした。 広場はカラー舗装が行われベンチが置かれて町の美観を取り戻した。 都心の商店の数が増え、 そして今回、 やすらぎの空間が加わった。 街の魅力が更に増えたことになる。 このことは即、 近郊都市に出来つつある郊外の大型店舗に対抗できる力である。

改行マーク大型店舗の郊外進出による都心の衰退を見越してそれを都心に誘導し、 逆に市内の活気を盛り上げる事に成功した例である。

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