ドイツのユニークな“まちづくり”
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

地域の中心に生まれ変わった
通過交通道路

ロスドルフの農村整備計画1

 

改行マークヨーロッパの町の成長期はかなり以前に終わっている。 そして昨今は経済不況の影響をうけてどこの地方自治体も財政はきびしく、 町の必要な手入れへの予算がまわらず、 まして町づくりの実験などはできないのが実状である。

改行マーク町は、 建物と同じく手入れをしなくて放っておけばどんどん悪くなる。 反面、 住民がじっさいに体験出来るような、 町をよくする改良案が町のどこかに1つ2つ実現されれば、 住民にも政治家にも町の手入れが必要なこと都市を考えていくことがいかに大切であるかが理解されるであろう。

改行マークほんの1つか2つの改良事業で町はすっかり変わる。 そんな例をここで紹介したい。


ロスドルフのウイルヘルム・ロイシュナー通り

画像m05-01
図1 ロスドルフの位置
改行マークロスドルフはフランクフルトから南に約40キロ、 おなじみダルムシュタット市の東隣にある。 村落人口はほぼ10,600人、 地域空間整備計画(わが国の国土計画に似たもの)では下位センターとして、 住民の日常生活一般をまかなう様に位置付けされている。 将来計画の重要課題は職住環境条件の保持と改善である(図1)。

改行マークここで取り上げるロスドルフのウイルヘルム・ロイシュナー通りは、 村落中心部の生活道路であり、 同時に隣の村落オーバー・ラムシュタットを結ぶ州道(L3104号線)である。

画像m05-02
図2 ロスドルフの市街地全体と幹線道路
改行マークまた悪いことに遠距離交通で東方からくる場合この通りはアウトバーンへの近道であるためトラックの通過交通が多い。 道幅が狭く部分的には5m以下で歩道が1m弱と歩行者、 自転車、 クルマの交通安全規定にあわなく危険である。 そのため村では一時期この道路に独自の「トラック通行止め」規制を行なっていた(図2)。


道路拡幅を計画、 土地買収も進む

改行マークこのような背景から70年代この道路の拡張工事が行なわれることになった。 当時の計画は車道面が6.5mという広いもので、 さらに歩道の拡幅をふくめて、 通り全体の拡張が計画された。 そして計画決定も済み、 一部の建物はすでに取り壊しが終わり、 残りも順次とりのぞかれる予定であった。

改行マークこの道路計画では、 ウイルヘルム・ロイシュナー通りの道路を拡張することと、 もう1つ内側に道路を新設して村の中心部に環状路線をつくることが考えられていて(村はまさに車に占領されるところであった)、 この計画のため役所はその関連土地を買い占めていた。 実はこの土地が後になって大変有効に働くことになる。

改行マークその後、 ロスドルフはヘッセン州の、 9年間の建設助成金のついた、 農村整備計画プログラムの適用を受けることになった。 「都市計画グループダルムシュタット」(Plaungsgruppe Darmstadt)がこの計画依頼を受けたのは1985年である。

改行マークこのような、 たとえば農村整備計画とか地区再開発のような大規模な計画とか、 役所内では処理できない高度な知識が必要なプロジェクトは民間の都市計画事務所に委託することが多い。 また小規模でも団地計画のように独立した計画は、 役人の数をふやさないために外に出されることがある。

改行マーク農村整備計画の趣旨の1つは「歴史的な地域特有の景観と環境の保全と維持」である。 ロスドルフのように、 中世からのせまい道路に高密度に家がたち並んでいる町では、 交通増加に対処しようとする場合、 町並み景観への問題が起きてくる。 交通問題を最上位において解決しようとすれば、 この例でみられるように地域特有の景観の破壊につながり、 将来取り返しのつかない景観上大きな損害となり、 地域景観の保全と維持という農村整備計画の目標に相反することになる。

改行マーク都市計画で交通問題と取り組む場合、 その目標は、 地域の環境や景観を考えながら車の通行はもちろん歩行者や自転車にも安全であるような交通計画を作ることである。


計画の見直し

改行マークここで従来までの、 道路計画を新しく考えなおすことになる。

改行マークとはいうもののいくら良い案でも、 すでに計画決定し建物とりこわしが半ばまで進行している計画をここにきてホゴにするのは生易しいことではない。 しかしその1985年という時期がよかった。 この時期になって世間一般の風潮が、 クルマ至上の経済一辺倒で住環境を無視した道路拡張に批判的になったこと、 それに加えて国の新しい道路法(EAE 85/95)で市内では「道路は歩行者が逍遥する場所でもあること」といった項目が付け加えられ、 道路幅が最も狭いところで、 トラックがやっと2台すれ違うことが出来る、 4.5mが可能になった。

改行マーク都市計画グループダルムシュタットはこの福音書をもって、 時間をかけて2つの機関を説得する:1つは役所の議会であり、 もう1つは州の道路局である。

改行マークウイルヘルム・ロイシュナー通りの見直し計画の骨子は

などである。

画像m05-03
図3 ウイルヘルム・ロイシュナー通り
改行マークこうして役所が最初に考えていたウイルヘルム・ロイシュナー通りの全面拡幅、 東側建物全体のとりこわし案を再検討することになる。 農村改善協議会、 役所首脳部、 都市計画局、 州道路局による長期の協議の結果、 一方では必要な交通安全が保たれ、 もう一方ではアンガー形式(
)の取り入れによって、 地域特有の景観維持と一部の新築事業という解決策が見つけられた。 (図3)
 こうして実際の道路に合わせて計画変更が行われた:

画像m05-05
図5 道路拡張のため部分的に取り払われた計画当初の町並み風景(上)とアンガー様式を取り入れた計画図
改行マーク計画変更への承認が得られれば、 その後の実施の段階はそんなに難しいことではない。 (図5)
 アンガー形式の広場とその周辺の道路建物計画はまず全体の枠組み計画(ラーメンプラン、 これは自治体条例としての効力はあるが都市計画法としての拘束力はない)がつくられ、 アンガー周辺部はBプラン(都市計画法にもとづく地区詳細計画)がつくられた。 このBプランの作成によって、 理論上では、 アンガーを形作る弓形の建物は複数のオーナーがそれぞれ独自に作っていってもかたちは出来あがるのであるが、 この場合は何時出来上がるという保証はない。

画像m05-06
図6 アンガーのある広場:計画図
画像m05-07
図7 アンガーのある広場
改行マークロスドルフでは村長がデベロッパーを探しだし、 地域の信託銀行の投資で全体を1つの建物として建設されている。 建物は2階プラス屋上階で1階には商店が入るような利用計画である(図6、 7)。

 


地域の核となったウイルヘルム・ロイシュナー通り

改行マーク農村整備計画の目標の1つは地域のセンターの作成または補強である。 センターすなわち人々の出会いの場、 コミュニケーション(私はこの言葉は好きではないが)の場である。 これまでロスドルフには地域の中心らしいものはなかった。 4〜5の商店が役所の周辺、 そしてこのウイルヘルム・ロイシュナー通りがつきあたるエアバッハー・シュトラーセにわずかに点在している。 これらをまとめて商店街とかセンターにするのはなかなか困難である。 またわが国の多くの自然発展村落にみられるように、 ロスドルフは狭い道路に家がたてこんでいて新しく中心地とか広場をつくのはむつかしい状態である。

改行マークこうしてウイルヘルム・ロイシュナー通りがアンガー形式で新しい地域の中心として生まれ、 ここがこれから村の核として発展していくであろう。 現在ではカフェーが一軒と本屋さんがあるが、 これから例えば若い理髪師が新しく開店する場所を探すなら、 ここが最も適しているであろう。 ここは買い物にきた人や理髪にきた人が戸外でコーヒーを楽しんだり、 子供が噴水で遊び、 しばし立ち話が出来る空間である。

改行マークアンガー広場は道路でありながらクルマから開放された囲まれた市民の憩いの空間である。 わが国の多くの町の状態と同じような状況から出発したこのプロジェクトは、 1つの都市改造の手法として興味ある例題であろう。

改行マークこれは今年度ヘッセン州の建築都市計画公開デーの展示プロジェクトである。

 


 アンガー(Anger)とは、 とくに北ドイツの村落に見られる広場の形式で、 道路の一部が広がった形の町並み形式である。 本来は農村の小放牧場で、 羊を朝ここに放牧し夕方ひきあげるための広場。 中央に教会があることもある。 このアンガー形式の道路がこの近郊村落にも存在し、 ロスドルフではボイネ・ガッセなどに見られる。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はE-Mail 春日井道彦

(C) by 春日井道彦
学芸出版社ホームページへ