ウルム市では、 都心を横切る幹線道路をトンネル化してその上を歩行者天国に開放しよう、 そして同時に地下大駐車場をつくって都心の活性化をはかろう、 という計画が市役所で決議され工事決定が発表された。 それに対し「トンネル反対」「地下駐車場反対」で市民がわきたち、 住民投票となり、 反対派が勝利をおさめた。 こうして工事はストップし、 計画決定は差し戻された。
ウルム市では、 つい先年ミュンスター広場の大聖堂の前に計画された新しいシティーハウス建設の是非で市民投票があり、 この場合はわずかの差で反対派がやぶれシティーハウスが建てられた。 そして今回、 ついに反対派は「市議会の決議は民意でない」とはねつけることに成功した。
住民投票できめる町づくり2
ウルムのノイエ通り
住民投票で反対派が勝利
トンネルと地下駐車場計画の経緯
ノイエ通りが出来るまで
ウルムのノイエ通りは都心を通っている。 大聖堂のあるミュンスター広場をワンブロックへだてて東西にとおり、 道路の中央に広がりをもつ片道2車線、 往復4車線、 部分的には5車線のひろい幹線道路である。
1. 当時のノイエ通り道路計画図 |
この計画道路には、 新しい道路ということで「新しい=ノイエ、 通り」と名づけられた。
ノイエ通り建設には「都市計画は時代の新しい要求に適合すべき」「町の経済発展のため」「通過交通ではなく、 都心に車をよびよせるため」などという説明がつけられた。
1948年、 ノイエ通り新設事業が市議会で決議されたときは「ウルムにとって大聖堂の建設以来の大工事」といわれ、 「すばらしい計画」「無条件に賛成」と拍手をもって市民に迎え入れたものである。
2. 戦後、 歴史的古い的並をこわしてアウトバーンのような広いノイエ通りが都心につくられた。 |
3. 大聖堂にちかい都心を2分する広いノイエ通り |
4. 大聖堂広場からの歩行者道路はノイエ通りで止まっている。 |
5. ノイエ通りのトンネル化を計画決定したBプラン |
6. 市民投票で反対されたトンネル化事業 |
市がそのBプランをもとにトンネルと地下駐車場建設工事の決議をしたのが1990年6月である。 (図6)
このトンネル工事の議会決議の直後、 市民のなかで反対運動がもちあがり、 市民投票で市議会の決議をさしもどすキャンペーンがくりひろげられた。
反対の理由は「時代にそくした交通計画を要求する、 トンネルと地下駐車場は時代遅れ」「総合的な公共輸送機関網の促進を」「公共輸送機関が早く、 安く、 楽ならクルマから乗り換える」というものである。
市民投票にこぎつけるには、 反対派が必要数のサインを集めて市に提出することが前提である。 こうして反対派は目標の第1段階、 ノイエ通りのトンネル化を市民投票で決定することを勝ち取った。
そして1990年12月におこなわれた市民投票では投票者の81.5%が反対。
投票率は51.8%と市民の関心は高く、 反対票数は31,484票で、 市の議決をくつがえすのに必要な22,411票をはるかにオーバー。 こうして反対派の勝利となり、 市が予定していたトンネル工事をストップすることに成功する。
この反対派の勝利は、 すこし前まで誰も予想できなかったことであり、 また可能とも考えられなかったことである、 と当日の新聞は報道している。
7. 市民投票後につくられたウルム市道路計画、 |
住民参加どころではなく、 まさに住民主導の町づくりである。
都市計画関連で市民投票が行なわれたケースについてすこし調べてみたら、 1つだけでてきた。 1994年ビースバーデン市で「ヘッセン州最初の都市計画テーマでの市民投票」があり、 都心のデルンシェス・ゲレンデの空き地に設計競技で選んだ建物を建てる(市)、 建てない(市民)、 で争い、 市民側の勝利があった(Der Architekt 2/95)。
これらの市民投票で、 議会に対して市民(市民パワー)がいかに強いか、 を示した。 市民はここで代表制民主主義に疑問を投げかけている。 そして都市計画の案を設計競技で公募することに疑問をなげかけ、 審査員の選択眼に疑問をなげかけている。 専門家といえどもアテにならない、 といっている。
問題は、 都市計画は市民投票で決めるべきものかどうか、 市民投票できめることが出来るものか、 ということである。
ここで市民という言葉をあえて、 シロウトという言葉におきかえると、 シロウトがあつまって都市計画を投票できめることが出来るか、 ということであろう。
反面、 住民参加という言葉で市民が強くなった。 市民は議決案をくつがえすまでの力を持っている。 しかし、 しかしである、 ノイエ通りの場合、 市民がくつがえした議決案は、 2年前に決定されたBプランの実現事業である。 このBプランは住民参加を重ねてつくるもので、 説明会があり公聴会をかさね、 議決前にはプランは4週間展示され、 意見や異議の申し立てを受け付ける期間があって、 実施案であるBプランがつくられる。 これは市民の承知のもとに作ったものである。
そのプランが、 いざ実施されるとなると、 急に反対を叫ぶとは良識がないではないか。 ドイツでの、 都市計画の住民参加を見なおす時点にきている。
どう評価すべきか
ドイツでマレな住民投票
ノイエ通りトンネル化工事の市民投票で反対派が勝利した翌日、 「誰も予想できず、 また可能とも考えられなかった」と新聞で報道されているように、 ドイツで市民投票が行なわれること、 そしてさらに市民反対派が勝って、 議会決議を差しもどすことはきわめてマレである。
市民パワーと専門家
ウルムもビースバーデンもともに伝統ある古い町並みのある都市である。 こういった町での計画や建物は、 保守的で穏当なものが市民に受け入れられやすい。 これが2つの都市の背景である。
専門家と素人
専門家よしっかりせよ、 といいたい。 しかしここで考えられるのは、 最近、 世間一般のことであるが、 専門家の権威が地の落ちたことである。 ノイエ通りにしても、 当時、 将来の交通量を計算し広い道幅を計画したのは専門家である。 そしてそれが広すぎるからトンネル化しようというのも専門家である。
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