ドイツのまちづくりについて、 これまで比較的小さいプロジェクトを取り上げてきたが、 今回はとびきり大きな地域、 全体の計画地域が8万ヘクタール、 ドイツ全体を切手ほどに縮小しても判明できるほどの大きな話を紹介したい。
これがまた面白く、 日本ではおそらく絶対にない計画であろう。
イベントによるまちづくり
国際建設展覧会 IBAエムシャーパーク
IBA 99 フィナーレ日程表 |
そしていま9年間の準備期間が終り、 今年5月から10月までその成果を世界に問う展覧会フィナーレが開かれる。
この国際建設展覧会IBA エムシャーパークのコンセプトについては、 わが国でも2、 3紹介されているので、 ここでは一般に紹介されていない、 あるいは記述されていてもザットふれられているだでけで気がつかない、 ドイツ的でユニークな部分を、 とくに金なし、 特別法なしで運営している、 まさに現在経済不況のわが国ですぐにも取り上げられそうな方針を紹介したい。
1. IBA エムシャーパークの位置図 |
それにしても大きな規模を取り上げたものである。 対象地域は長さ40km、 幅7km、 面積およそ800平方キロメートル、 指定区域には17の地方自治体が含まれている。
2. かつての工場施設がそのままの姿で残されている、 産業記念物は地域のアンデンティテーである |
3. コンクリートで作られたエムシャー排水路、 「心臓の鼓動が聞こえるか(死んでしまってもう聞こえないだろう)」と落書きされている |
州がIBA エムシャーパークの事業にあたってこのような外郭団体を作った理由は、 1つには特別事業のためさらに人を雇って、 役人を増やしたくないこと(会社は事業後に解散すればおしまい)と、 もう1つは、 民間会社で小さく1つのまとまった組織は小回りがきく、 早い決定が可能であること(ドイツでもお役所の担当主義には頭をなやめていることがこれでわかる)、 また、 民活が重んじられる今日、 こういった民間形式のほうが都合がよいこと、 などの理由である。
金がなければ頭を使おう
展覧会の開催主体はノルトライン・ウェストファーレン州である。 州はIBAという大事業の遂行のために、 1つの頭脳集団を設立した。 IBAエムシャーパーク社である。 これは州の外郭団体で有限会社の形式をとり、 展覧会の期限10年間をかぎって存在させる。 運営費は州が負担し、 州からの役人2人が社長と副社長を担当し、 その他の33人の作業員は期限付きで雇用されている。
4. ラインエルベ学術パーク、 ソーラーエネルギーの会社が集まっている。 |
こうして採用されたIBAプロジェクトには、 IBAエムシャーパーク社によって良いものつくりに最大の努力がはらわれる。
IBAエムシャーパーク社のプロジェクト対応
7つの方針テーマに対応し5つの原則に相応する、 として取り上げられたプロジェクトは、
1)まず、 民間公共を問わず、 IBAエムシャーパーク社と契約が結ばれ、 IBAプロジェクトとして事業目標が明確にされると同時に質が管理される。
2)IBAエムシャーパーク社は各プロジェクトについて、 コンセプトの設定、 コンペや事業実施の指導をする。
3)実施設計案や都市計画構想は設計競技(コンペ)で募集する。 国内ばかりでなく国外にもよびかける、 ここから国際建設展覧会の呼称がついている。
4)前例のない問題にぶつかった場合、 専門家セミナーを開催したり委託研究を行なったりする。
5)あるいは国の内外の専門家や参考人を招き、 ワークショップを開催する。 これは地域住民の関心を喚起することにもつながる。
予算ゼロでどうして事業を行なうか
IBAエムシャーパーク社は「予算ゼロで権力も強制もなく、 展覧会の開催準備にあたる」と記述したが、 実際には少しの優先権があり事業の見とおしもある。
5. 旧炭坑施設で行なわれるコンサート。 産業遺構を文化財に |
6. ランドスケープとして造形されたボタ山を敷地計画に取り入れた住宅団地 |
7. 女性がプランし、 女性が作って住む社会住宅。 従来の住宅建設を見なおす |
IBAエムシャーパーク社の重要な作業は、 ひと口にいえば、 コーディネートと「公報」である。 IBAプロジェクトとして取り上げられた事業には、 あらゆる補助金をあつめ、 良いものつくりのコーディネートをする。 そして出来たものを、 IBAプロジェクトの名前をつけて公報する。 これがコンセプトである。
したがって公報はIBAエムシャーパーク社では、 たいへん重要な仕事である。 会社の総人数は35名でその内訳は、 5名が事務で、 残りは「プロジェクト担当」と「公報」が同数で分けられている。 なんと専門職の半分が公報である。 公報がそれほど重視されていることがこれでわかる。
IBA エムシャーパークの方針は「地域、 都市、 建築の開発にあたって必要なアイデアを国の内外から募りそれを実現させる。 またそういった一連のまちづくり過程そのものを展示する」ところにある。 ここが一般の展覧会と大きく違う。 完成した姿ではなく、 地域改造の過程で、 どのようなプロジェクトが、 どのようにおこなわれたか、 戦略的な解決方法もここでは展覧会の一部である。
IBAプロジェクト数は現在117(1999年4月)、 そして、 プロジェクトの総経費は約50億マルク(約3500億円)で、 費用割合の内訳は官が2/3と民が1/3となっている。
IBA エムシャーパークの特徴
1)良い建物や手本となるまちづくりを実際に作って見せる。 まちづくりへの一般の意識をたかめる。 世間一般の目を養い、 美の感覚を啓蒙する。
参考文献
2)展覧会場は、 どこかの遠くはなれた郊外ではなく、 既成市街地内部のあちこちに良い実例を示し、 波及効果をねらっている。
3)1つ1つ完成したものは、 地域のストックとなって、 町の改善につながっていく。
4)まちづくりの過程をみせる、 町が少しずつ良くなっていく方法やプロセスを、 住んでいる町を住民と一緒に進めていく。 このプロセスは展覧会が終わっても今後さらに続けられていくであろう。
1 春日井 道彦「IBAベルリン−イベントとしての国際建設展覧会」『都市計画』平成2年6月
2 春日井 道彦「地域開発戦略の実験場目指す国際建築展、 IBA エムシャーパーク」『NIKKEI ARCHITECTURE』1992年5月25日号
3 21世紀の工業都市を目指して「講演会議事録」、 富士商工会議所他、 1994年10月
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